プログラミング学習と生成AI、特長と必要な力は?小学生の向き合い方

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「ChatGPT」「Gemini」などの生成AIの名前を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。
保護者の方の中には、実際に使った経験のある方もいらっしゃると思います。
生成AIを使ったことのある方であれば、膨大な情報が瞬時に出てくることや、AIとやり取りしながら求める情報に到達していくことなど、一定の便利さを感じていることでしょう。

小学生のお子さまの中にはプログラミングを習い事の一つとして取り組んでいるお子さまもいると思いますが、今後は「生成AI」を使っていくことも念頭に置きたいところです。
今回はプログラミング学習と生成AIの利用の違いや、生成AIを使っていくうえでの留意点などをお伝えしたいと思います。

一般社団法人 日本速読解力協会 理事 安田 哲

ライター

安田 哲

一般社団法人 日本速読解力協会 理事

約20年間にわたり首都圏大手進学塾の現場の最前線で、英語・国語を中心に指導。中学受験・高校受験の難関校への多数の合格者を輩出。科目の内容の指導だけでなく、家庭学習管理、生徒・保護者の皆様との面談を多数行う。大学院では言語学を専攻、英語以外の言語に関しても幅広い知識を有する。

プログラミング学習とは

小学生でプログラミングを学習することで、どのようなメリットがあるでしょうか。
目的やゴール設定によってもメリットは変わってくると思いますが、「論理的思考力の基礎を養う」という点は大きなメリットとして挙げられるでしょう。

順序だてて考えることができる

論理的思考力を養っていくうえでは、「順序だてて考える」ということが第一歩です。
まず何をして、次に何をして、最後に何をする…という「順序」がしっかり理解できていないと、どこでつまづいているのか、何がエラーだったのかがわからなくなってしまいます。

小学生の間はこのような「ものごとの順序」が曖昧になっているケースが多く、例えば、算数の文章題や国語の物語文などで適切に時間軸を追うことができないことがあります。
日常生活でも「次に何をするか」がわかるようになると、子どもたちは一人で行動しやすくなりますので、ものごとを順序だてて考えられるようになることは重要と言えるでしょう。

原因と結果の関係を理解できる

時間軸で考えると「順序だてて考える」と似ている部分もありますが、「何が原因でこの結果が出てきたのか」を捉えられるようになるのが「原因と結果の関係」を理解しているということです。
中学生以上になると「因果関係」と「相関関係」の違いを正しく理解していく必要が出てきますが、小学生のうちは、この「因果関係」を正しく捉えられるようになることがまず重要なことです。

例えば「手を洗う→ご飯を食べる」は「順序だてて考える」、「手を洗う→手指の雑菌が減る」は「原因と結果の関係」のように、日常生活の中でも例を挙げたり、実際に子どもたちに挙げさせたりすると、理解は進むと言えます。
小学生が学んでいるプログラミングの場合は「原因と結果」が画面上でわかりやすく出てきますから、この考え方を身につける上で、役に立つと言えるでしょう。

問題を分解する能力

原因と結果の関係が理解できたら、次はその「原因」の分析ができるようになります。
最初のうちは単純な原因と結果で組み立てるプログラムから学習していくと思いますが、徐々に複雑なプログラミングになってくると、複数の要素が絡み合って問題になっている場合があります。
そのようなときに「何がこの結果を引き起こしたのだろう」と考え、そこにどのような問題が内在しているのかを考えられるようになると日常生活の様々な場面でも役立つと言えます。

思考力の「源泉」は「試行錯誤できる力」から

物事を順序だてて考え、原因と結果の関係を把握し、起こっている問題の分解が終わったら、次に行うことは「問題点を修正してみる」ということが必要です。
修正が終わったらもう一度プログラムを走らせてみて、さらに問題が残っていないかを確認し、まだ解決していないようであれば、再度修正する…ということの繰り返しです。

このように「試行錯誤すること」こそが「思考力」のベースになっています。
思考系の問題にぶつかったときに、紙と鉛筆を準備していろいろ書きこんであれこれと思考を巡らせた経験のある保護者の方も多いかもしれません。
子どもたちに「考えなさい」と言ったときに、実際に手を動かしていると「考えているフリ」ではないことがわかります。

小学生が学んでいるプログラミングの場合には、多くの場合アプリ上でブロック等を組み合わせるような直感的に理解できることから、この「試行錯誤」に取り組ませることがしやすいと言えるかもしれません。

生成AIの利用

ChatGPTで注目を浴びてから、最近では画像生成や動画生成にいたるまで、生成AIを活用する場面は広がっているように感じます。
教育の場面でも、先生方が有効に活用しているケースが増えてきているようです。
ここでは、近い将来子どもたちが使うであろう生成AIについて、その有効な使い方と留意点について解説します。

効果的に利用するために

生成AIは「万能の魔法のツール」ではありません。
効果的に使うことができる活用方法と、そのために必要なポイントがあります。

アイデア創出

何かのアイデアが欲しいと思ったときに、生成AIとチャットしながら考えをブラッシュアップしていくことができます。
自分だけで考えていても、自分の知識の範囲の中でしか考えることができません。
膨大なデータが含まれている生成AIと対話することで、新たな切り口を得ることができるかもしれません。
実は、この記事のタイトルは生成AIを使用してアイデアを出しています。

情報の整理

アイデアが広がり過ぎたり、情報が多くなりすぎたりしたときに、整理・要約をさせることに生成AIを活用することができます。
収集したデータが多くなっているときに、データの傾向を簡潔に把握したり、長文の内容の要旨をとりあえず把握したりするときに、生成AIを活用できることがあります。

注意しておきたいこと

有効に活用すれば便利な生成AIですが、利用にあたっては事前に理解しておかなければいけないことがいくつかあります。
ここでは初歩的な段階として以下の2点を挙げておきます。
ただ、生成AIの進歩は速いので、これらも徐々に解決していくかもしれません。

適切なインプットが必要

例えば「英語で会話しましょう」と生成AIに呼び掛けても、生成AIから期待するようなテーマや内容が返ってこないこともあります。
「地球の温暖化について英語で会話しましょう」のように、なるべく具体的にインプットをしないと、期待しているような結果は出てこないかもしれません。
期待していた結果が出てこない場合には、インプットの切り口を変えてみるなどの工夫が必要です。
いったん出てきた結果を踏まえて、どのような「切り返し方」をしていくかもトレーニングしておけると、活用の幅は広がるでしょう。

情報の信頼性を確認する必要

生成AIには「ハルシネーション」と呼ばれる現象が起こります。
ハルシネーションというのは、AIが事実を誤って認識していたり、内容に矛盾を含んでいたり、事実とはまったく異なる情報を生成してしまう現象のことです。
明らかな誤りの文章であれば気づくこともあると思いますが、周辺に「正しい情報」があって、一部分に「誤った情報」が潜んでいる場合には、意識して確認するようにしないと、誤りを見逃してしまう可能性があるので要注意です。

プログラミングと生成AIの違い

どちらも順序だてて考えたり、情報を整理して理解したりする必要がありますが、違いを挙げるとすると、以下のような違いがありそうです。

めざすゴールとは

プログラミングは「思考力の基礎」を固めていくことがゴールであるのに対し、生成AIはあくまでも「ツールとしての活用能力」を最大限にしていくことがゴールと言えるでしょう。
近い将来、生成AIは今以上に身近なものになっていくことでしょう。

生成AIに「指示」を出す(インプットをする)のは、我々人間ですから、AIを使う人の指示の質や明確さによって、出力の質が大きく左右されます。
言い換えると、使う人の能力以上には生成AIは動いてくれないとも言えるでしょう。
生成AIを使いこなす基礎としての論理的な思考力をプログラミングで養っていくことは必要かもしれません。

必要なスキルとアプローチとは

上記のゴールを達成するために必要なスキルとアプローチは、次のように整理できるでしょう。

  • プログラミング 論理的思考の基礎を養う体系的な学習
  • 生成AI 情報を整理し意思決定をする能力を養うための実践演習

プログラミングは易しい(わかりやすい)ところから段階を踏んで伸ばしていく必要があります。
体系的に整えられたカリキュラムを通して、少しずつレベルアップできるように取り組んでほしいと思います。

一方で、生成AIの場合は「まずは触ってみる」ところからスタートになるでしょう。
実際にどういった指示を出すとどのような結果が出るのか、生成AIの進歩は日進月歩ですから、ついこの前までできなかったことができるようになっていることもあります。
ただ、あくまでも生成AIに意思を伝えるのは人間です。
生成AIを「使いこなす」ためのトレーニングだと思って、チャレンジするところからスタートしてみてはいかがでしょうか。

どのような成果物が出るか

プログラミングを経て得られる成果物は「自分で作ったプログラム」です。
目指すゴールに向けて試行錯誤を繰り返した結果としての達成感も得られることでしょう。
順序だてて考えるクセや、試行錯誤する習慣、最後まであきらめない力、論理的思考力や問題解決能力などの認知スキルも身につき、たとえば受験勉強などでも役立てることができる、その子だけの力となることでしょう。

生成AIを使用して得られる成果物は「AIとの協働」です。
生成AIに情報収集をしてもらったり、表現や言い回しを修正してもらったりしても、そこでできあがるのは完成品ではありません。
それらを必ず自分自身の目でチェックして、情報が正しいのかどうか、適切な表現なのかどうかを検証する必要があります。
その意味で「AIとの協働」が成果といえるでしょう。

まとめ

プログラミング学習では「思考力の基礎」を固めるのに対し、生成AIはあくまでも「ツールとしての活用能力」

  • プログラミングは受験などでも役立てることができる様々な力が身につく
  • 生成AIは万能なツールではない点に注意して使用する必要がある

生成AIとプログラミングは近しいように感じますが、利用方法は異なります。ですが、どちらも順序だてて考え、情報を整理し理解する力は必要です。便利なツールに頼りすぎず、自分で考える力を育てることは意識しておきたいですね。

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