芥川賞とは?受賞の基準と過去の受賞作品もご紹介

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芥川賞選考委員会が2023年7月19日に開催され、第169回の受賞作品は市川沙央さんの「ハンチバック」と発表されました。
芥川賞は年に2回発表されますが、一体どのような基準で選ばれるのでしょうか?

中高生におすすめの過去の受賞作品もあわせてご紹介します

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芥川賞とはどんな賞なの?

芥川龍之介を記念して創設された文学賞

芥川賞(正式名称は芥川龍之介賞)は、1935年に芥川龍之介の業績を記念して創設された文学賞のことで、新人作家による純文学の短編~中編作品のなかから選ばれます。
純文学とは「主に文章の美しさや表現方法の多彩さ(芸術性)に重きをおいた小説」のことを指します。
第153回に又吉直樹さんが『火花』という作品で授賞されて話題になりました。

芥川賞受賞作品発表の際には、直木賞(正式名称は直木三十五賞)も同時に発表されます。

芥川龍之介ってどんな人?

では、賞の名前となった芥川龍之介は、一体どのような人物だったのでしょうか?

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引用元:新潮社

芥川龍之介は、1892年に現在の東京都中央区に生まれました。
幼いころからとても頭が良く、現在の東京大学(旧東京帝国大学)に通っていました。

大学入学後から執筆活動をし、有名な「羅生門」や「鼻」という作品も発表しています。また、夏目漱石にも弟子入りしていました。
大学卒業後は教師として働きながら文学活動をしていましたが、1921年に心身ともに病気がちになり、1927年に35歳という若さでこの世を去りました。

芥川龍之介の作品の特徴

芥川龍之介の作品は短編が多く、先ほど紹介した「羅生門」「鼻」の他に、「地獄変」や「蜘蛛の糸」「藪の中」といった作品もとても有名で、教科書にも載っています。

心情の細かな描写、そして生きることの苦しみや人間の持つ闇を表現した文学的な技巧は、芥川龍之介作品の大きな魅力と言えます。
弟子入りした夏目漱石からは作品を絶賛され、太宰治は芥川龍之介から強い影響を受けたと言われています。
「芥川賞」と賞に名前がつけられるほど、芥川龍之介が後世に与えた影響は大変大きいものなのです。

芥川賞の受賞基準は?

次に、芥川賞を受賞するための基準や受賞時の賞品をご紹介します。

芥川賞の受賞基準

まず、芥川賞候補として選考作品に入るために満たさなければいけない条件があります。

(1)純文学作品である

芥川賞は純文学作品に贈られる賞なので、純文学の定義に基づいた「文章の美しさや表現方法の多彩さ(芸術性)に重きをおいた小説」であるかどうかがポイントです。

(2)新人作家が書いた作品である

新人作家という基準はあいまいなのですが、過去の受賞者はデビューして10年以内の作家が多いです。

(3)過去半年以内に雑誌で発表された作品である

作品が芥川賞候補に挙がるためには、過去半年以内に雑誌で発表されたということが条件です。
雑誌の新人賞を受賞して掲載されたり、編集者にスカウトされて掲載されたりした作品が芥川賞の候補作品として上がります。

(4)短編~中編の作品である

芥川龍之介の作品は短編が多いということもあるのか、短編~中編の作品であることが選考基準として挙げられています。文字数としては、10,000文字~100,000文字程度です。

芥川賞の受賞賞品

見事、芥川賞を受賞したら、受賞作家には正賞に懐中時計、副賞に賞金100万円が贈られます。

なぜ懐中時計が正賞なの?

芥川賞が創設された時代は、生活に苦しむ作家が多くいました。
そんな作家のために、芥川賞創設者の菊池寛氏は、正賞を懐中時計にしようと決めます。

当時、とても高価なものとされていた懐中時計は、もし受賞した作家が生活に困ったときにお金に換えられるようにという配慮もあったそうです。
さらに懐中時計には、受賞者の名前と受賞日が刻印されているので、受賞者にとって大変価値のある素敵な記念品になりますよね。

また、受賞作品は「文藝春秋」という有名な雑誌に掲載されます。
受賞の発表があった瞬間から、メディアに取り上げられたり、書店で特設コーナーが設けられたりと、受賞作品や作家は世間の注目の的になります。

中高生にもおすすめ!過去の受賞作品

文学賞を受賞した作品は読むのが難しいかも…というイメージがあるかもしれません。
でも中高生の皆さんが楽しく読める作品もたくさんあります。

面白そうだなと感じた作品はぜひ手に取ってみてくださいね

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蹴りたい背中(綿矢りさ著/第130回芥川賞受賞作品)

高校に入ったばかりの“にな川”と“ハツ”はクラスの余り者同士。臆病ゆえに孤独な2人の関係のゆくえは……。
世代を超えて多くの読者の共感をよんだ第130回芥川賞受賞作。

(参考:河出書房新社

綿矢りささんは17歳の時には「インストール」という作品で文藝賞を受賞してデビューしています。
芥川賞を受賞した当時は19歳で、最年少タイで受賞したことで話題になりました。
冒頭の一文である「さびしさは鳴る。」という表現は、「19歳が書いたとは思えない」と絶賛されたことも有名です。

主人公が高校生なので感情移入しやすいという点と、感情などの描写がうまく例えられている点から、中高生でも読みやすい作品のひとつです。

火花(又吉直樹著/第153回芥川賞受賞作品)

笑いとは何か、人間とは何かを描ききったデビュー小説。
売れない芸人徳永は、熱海の花火大会で、師として仰ぐべき先輩神谷に電撃的に出会った。そのお笑い哲学に心酔して行動を共にしながら議論を続けるのだが、やがて二人は別の道を歩んでいくことになる。
運命は二人をどこへ連れていくのか。

(参考:文藝春秋BOOKS

お笑い芸人として活躍している又吉直樹さんのデビュー作である「火花」は、受賞当時大きな話題になりました。
中高生の朝読書ランキングでも常に上位にいて、読書感想文を書く作品として選ばれることも多く、大変人気の作品です。

ドラマ化・映画化もされているので、作品と共に楽しんでみてはいかがでしょうか。

コンビニ人間(村田沙耶香著/第155回芥川賞受賞作品)

36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。
「いらっしゃいませー!!」お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。

(参考:文藝春秋BOOKS

物語を通して「普通とは何か」を問うこの作品は、「自分にとっては普通だけど、他人にとっては普通ではない」ということや、個々の価値観を尊重する大切さについて考えさせられます。
海外での評価が大変高く、世界30カ国語に翻訳されています。

推し、燃ゆ(宇佐美りん著/第164回芥川賞受賞作品)

逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。
アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し――。

(参考:河出書房新社

宇佐美りんさんはデビュー作「かか」で最年少の21歳で三島由紀夫賞を受賞し、第二作目となる「推し、燃ゆ」で芥川賞を受賞しました。
受賞後は本屋大賞にノミネート、第7回沖縄書店大賞受賞、さらに「2021年もっとも売れた小説」として挙げられるなど、とても話題になりました。

また、この作品をきっかけに熱狂的に応援する対象「推し」に関する様々なことに世間が注目することになり、流行語大賞には「推し活」がノミネートされるという社会現象にもなりました。

まとめ

芥川賞受賞作品を読んで、純文学に触れてみよう

  • 芥川賞は芥川龍之介を記念して創設された文学賞
  • 選考基準は「純文学・新人・発表済の作品・短編/中編小説」であること
  • 受賞作品の中でも中高生に読みやすい作品も多い

受賞作品の発表が近づくにつれ、書店などではノミネート作品を取り上げることが多くなります。「気になるな」という作品があれば、ぜひ手に取って読んでみましょう。
また、芥川賞がきっかけで芥川龍之介の作品を読んでみるのも良いですね。
さまざまな表現の文学に触れることで、自分のお気に入りの作家さんに出会えるかもしれませんよ。

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