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新聞×速読 読む力:ゲスト講演 茂木健一郎先生

2014年4月12日(土)新聞×速読 読む力 ゲスト講演 茂木健一郎先生
脳を活かす勉強法① 頭のいい人はみんな速読ができる

出典:「塾と教育」2014年6月号より

 

僕は毎日、朝ご飯を食べながら新 聞を読みます。いつも社会面から読み始めて一面にたどり着くまで 10分から15分ですね。僕は小学生の頃から年間200冊くらいの本を読んでいました。チョウチョの研究をしていたので、次か ら次へと知りたいことが出てきて、片っ端から本を読んでいったのです。人間は大きく2種類に分けられます。オタク系の人たちとヤンキー系の人たちです(笑)。僕は明らかにオタク系です。僕は小さいときから勉強が大変おできになったのですが、勉強ができるこというのは大抵オタク系です。

 

オタク系の人は部屋に閉じこもってひたすら本を読んでいたり、プログラミングしていたりするだけで幸せになれます。着るものにもほとんど頓着しません。ほら、いつもこんな感じです(笑)。この前テレビ番組で、僕はあるお笑いタレントに、「賢いホームレス」と呼ばれました。「うまいこと言うなぁ、その通り」と自分で思いました。一方、小学生の頃から教科書なんて開いたことがないという僕の知り合いの歌舞伎役者がいますが、彼なんかはヤンキー系です。生き物として元気な人というのでしょうか。己の欲望に忠実というのでしょうか。エグザイルの人たちなんかもまさにヤンキー系ですよね。オタク系の人たちはみんなだいたい速読ができます。僕は速読の訓練を受けたことはありませんが、大量の本を読むことで、自分で速読の技術を身に付けました。世界的に 活躍できる科学者になるためには、500くらいの論文を読まなければいけません。それも英語でですよ。一文字一文字音読しているようではとても時間が足りません。自ずと速読をしなければならなくなるのです。
文系でも同じです。東大の哲学者の先生が言っていました。1日600ページくらいは読めないと話にならないのだそうです。アメリカのIVYリーグという一流大学の生徒たちは、卒業する前に専門書を600冊読まなければならないらしいです。いかに効率的に本を読むかということは、アカデミックな世界で生きていくうえで、最低限必要なスキルなのです。
学校ではいろいろなことをまんべんなく勉強します。でもそれだけでは残念ながら活躍できる人にはなれません。本当に勉強ができて、活躍できるオタク系の人というのは、小学校の教科書なんて配られたその日のうちに全部読んで理解してしまいます。それくらいのスピード感じゃないとダメ。子どもでも年間何十冊 も本を読ませたほうがいいです。
 速読のことを英語ではフォトリーディングなどと呼びます。1文字ずつ頭の中で音声に変換する黙読とは違って、視覚情報として文字を取り込むわけですねいちいち音声に変換しないから早く読めるわけです。頭のいい人というのはみんな速読ができます。
 ただし、僕もいつでも速読をしているわけではありません。小説を読むときにはじっくり味わいながら読みたいし、哲学書を読むときには1行読むごとに1時間くらい考えてしまったりするわけです。速読は必要なときに早く読むための道具だと考えたほうがいいでしょう。

 

知識量ではなく、頭そのものがいいことを地頭がいいと言うことがありますよね。それに似た力をIQという数字で計測することもあります。 IQは実は生まれつきではないことがわかっています。鍛えることができるのです。 IQを伸ばすのに必要なのは、何か一つのことに集中すること。しかも抽象的なことに集中できること。 その点、本を読むという行為は、集中力も高めますし、思考の抽象度も上がります。IQの高い人というのは、脳の背外側前頭葉前皮質という部分が発達してます。そこが刺激されます。脳も筋肉と同じで、使えば使うほど鍛えられるのです。
 


 

地頭の良さは何にでも応用可能です。特に集中回路というものが発達します。いつでもどんな状況でもいきなりトップスピードになることができるようになります。実はこれ、とっても大切な能力なんです。日本の昔の武道なんかはそういう能力を鍛える修行をしていたんですよ。敵に襲われたときに、のんびりウォーミングアップなんてできないじゃないですか(笑)。
 じゃ、会場の良い子に聞いてみましょう。ねぇ、そこのお嬢ちゃん。今から質問するから応えてね。
「勉強いつするの?」
「今でしょ!」
「そうです。すばらしい。頭の回転早いですね。ではもう一つ質問するよ」
「勉強どこでするの?」
「……」
「あれ、難しいかな。もう一度聞くよ。勉強どこでするの?」
「居間でしょ!」
「そう!すばらしい。この子は見込みがありますね」
 子どもに勉強をさせるとき、静かな勉強部屋を与える必要なんてありません。居間でいいんです。ノイズがあっても集中できる回路があるんです。
そこを鍛えておくとどこでも勉強ができるようになる。どこでもいきなりトップスピードに入ることができるようになります。子どもの頃からそういう力を鍛えておく負荷トレーニングとして、居間での勉強は効果があると考えられます。 ものすごく集中して時間も忘れるくらいになることを「ゾーンに入る」とか「フロー状態」と呼びます。トップアスリートが世界記録を出すようなときにはこの状態になっています。ものすごく集中しているのですが、リラックスしているのです。この状態が最もパフォーマンスが高くなる状態です。勉強しているときにこの状態になることを経験すれば、学びがものすごく深くなって、喜びも感じられるようになります。勉強をいくらやっても成績が上がらない子っていうのはフロー状態を経験したことがないんですね。では、どうしたらフロー状態を経験できるのか。自分の脳にある程度の負荷をかけなければいけないんです。ちょっと無理めの負荷をかけると、フロー状態になる。できるかどうかわからないことをやり遂げると、脳内にドーパミンが出ます。それでやる気が喚起されます。つまり自分自身に「無茶振り」することが、脳を鍛えるうえでは大事なんです。